ゲスト作曲家、杉山洋一氏によるプログラムノート

コンサートに先駆け、今回のゲスト作曲家の杉山洋一氏によるプログラムノートをご紹介いたします。

今回の東京現音計画の演奏会のプログラムは、日本で未だ知られていないイタリアの作家や作品を絡め、サクソフォン、チューバ、打楽器、ピアノとエレクトロニクスという編成の特殊性を活かすことにあります。素晴らしい演奏家との出会いは、一見むつかしそうな条件でも、無限の可能性へ変化させてくれて、同時に各奏者の個性や存在感を充分に活かしたいと思いました。

大石さんの魅惑的な音でヨガの行者!でもあるネッティの神秘的な音楽を、神田さんには缶カラに針金がのびたような形状の余りお目にかかることのない打楽器スプリングドラム一つで、圧倒的なビッローネの世界を紹介していただきます。
ルーチョ・フォンターナの裂け目の入ったカンバスの世界を大胆に描いた、サーニの迫力抜群の傑作を、黒田さんと有馬さんに。
僕が一枚下書きを書くたびに橋本さんにお送りして、「これは吹けますか」「大丈夫です」「これでも吹けますか」「大丈夫です」「本当にいいんですか」「大丈夫です」と調子に乗ってゆくうち、とんでもないチューバの姿へと変化してしまった「ファンファーレ」をここぞとご本人にお願いし、ベリオとマデルナが作ったミラノのRAI音声学研究所で、当時まだ珍しかった4チャンネルで製作された斬新な作品のなかから、今回はドナトーニとクレメンティを取り上げ、有馬さんの魔術で初演当時の臨場感あふれる音響を再現していただくことにしました。

一見意外な演奏者の組合せの妙を愉しんで頂くべく小品もはさんでみました。
マデルナの古典的名作「ディアロディア」は、オーボエやフルートなどで演奏するのが普通ですが、どの楽器で演奏しても構わないそうですので、今回はサクソフォンとチューバ!による響きの妙を愉しんでいただきます。
ルターが作曲したクリスマス賛歌「天のかなたより」をクレメンティが作り直したのは、カノン好きのクレメンティが、この作品にバッハが有名なオルガンのカノン変奏曲に影響を受けたのは間違いありません。その証に、原曲には鍵盤楽器か4楽器にて演奏せよ、とあります。

「天のかなたより」では、「嬉しい知らせを伝えるべく、天のかなたから来ました。神さまの憐れみによって、世界の罪を救うため」と天使が謳います。悲しいけれど、世界には悲しい知らせもたくさんあります。95年、ナイジェリアで一人の作家が死刑に処されました。彼の故郷ではわたしたちが使う石油を掘っていて、そのため人が住めなくなるほど環境破壊が進んだことを国際的に告発して、当時の軍事政府の口封じにあいました。
311ののち、サロ=ウィワというこの作家のことを、たびたび思い出していました。そして、故郷を破壊や汚染によって失った人たちについて思い、どんな形で作り出されたにせよ、現在自分が享受している電力すべて、つまり自分の文化の対価について思いました。作品は3つの素材から出来ていて、彼が亡くなる直前に残した声明文と同じく刑執行直前のヴィデオインタヴュー。そしてもう一つ、毎木曜早朝、現地のひとびとが彼の墓に集い祈りを捧げるときに歌われる、キリスト教の賛美歌です。

2013年8月ミラノ空港にて